夜明けの図書館
埜納タオ
新人司書として暁月(あかつき)市立図書館に勤務することとなった「葵ひなこ(25歳)」のレファレンスサービスにおける奮闘ぶりを描いたいわゆるお仕事もの。一人の司書を通じて語られる図書館の様々な事情、「公共の書架」に馴染みのない方々には驚くような実態を垣間見られる稀有な物語と言ってよいと思う。連載期間約10年の歳月を掛けてこの度めでたく完結した、全7巻。
本好きにとって図書館は書店と並ぶ聖地のひとつではある。一方そこまでの本好きではなかったとしても図書館に対する感覚というのはおそらく共通してもっとも気軽に赴ける「公共施設」と言っていいだろう(実を言うとそうした各図書館ごとに蔵書のジャンルなどで特徴があることを知る人は多くはないかもしれない)。とにかく各都市・各地域には必ずあるこの図書館という存在とそこで働く司書、そして利用する側の様々な人間模様と照らし合わせて物語の核を成しているのが本書の特徴だ。司書が単なる「図書館の受付の人」ではなく、レファレンスというサービスを通じて「人」や「地域」とどう関わっていくのか、そうした「コミュニケーション」を「発見(もしくは再発見)」というゴールに向かって醸成されていく様を存分に楽しめる。
「図書の守り人」とはよく言ったものだがそれだけではないある種の謎解き要素「探偵もの」のような、事実や真実をひとつひとつ丁寧に紐解いていく過程は非常に興味深い。「答え」として何が適切なのか、過去の事情を照らし合わせたり、将来への事情を汲み取ったり、極めてドラマチックな言い換えれば人間味の溢れるストーリーを堪能出来ると思う。
地味に次巻を楽しみにしていた作品なので完結は少々寂しい気もする。主人公「ひなこ」の成長はまだまだ途上ではあるし、課題や問題は日々新しく上書きされていくに違いない。一方で「図書館」とそこにある「地域」の共生は今に始まったことではないし、終わったわけでもないのだ。長く続くある瞬間の一コマをただ切り取っただけに過ぎず、つまりは清々しいほどにサラリとした終幕こそ正解と思い込むことにした次第だ。
内容を理解するには別の知識が必要か
暁月市という架空の都市が舞台となっている。そのために地域の情報は物語の中で完結しているのでリアルな知識を詰め込む必要もないと思う。
読み易さについて
逆に言えば、この分かりやすさはかなり取材を労したに違いないと思えるほど構成は親切。読み易いと思う。
誰にでもお薦めできる内容か
読む人を選ばず誰にでも楽しめる。