皐月文庫

幻冬舎

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最終更新日2020年8月15日
小説 24

雨上がりの川

森沢明夫

川沿いに建つマンションの3階には編集者で夫の「川合淳」と元研究職員で妻の「杏子」、些細ないじめ問題から不登校になってしまった一人娘「春香」の3人が暮らしている。顔に傷を負い、引き篭もってしまった娘にどう接すればよいのか分からない夫、淀んだ川のようなぬるりとした状況の中、追い込まれた理論家の妻が次第に不可解な行動を見せ始める。その影には驚くべき異能の力で評判の一人の霊媒師の姿があった。

「霊能」や「霊視」といった怪しいワードがあり、本当にそれが「真」であるのか、疑いきれない絶妙なニュアンスを含ませつつ、ミステリアスな雰囲気を感じながら一気に読める作品、正直なところ物語の感触としては往年の探偵もの、推理小説に近い気がする。おそらくそういったジャンルに馴染みのない読者には読後の「解答」はきっと心地よく感じるはずだし、勘の良い読み手にとっても冒頭から随所に散りばめられた「トリック」にニヤリとするに違いない。そんな仕組みで登場人物のそれぞれに視点をあて、見方を限定させないやり方も緊張感を持続させるには持ってこいだったのだろう。事実、その結果として本筋である「ネタ」をうまい具合に覆い隠すことに成功しているし、「落ち」である答え合わせの際には臨場感さえ感じてしまった。「カタルシス」というとちょっと語弊があるかもしれないが、似たような清々しさに浸れるポジティブな物語だと思う。

もう一点特筆すべき事柄として、一貫して描かれる人間の持つ「正しさ」、善なるものの性質によってのみ物語が進んでいく点にある。それはもちろん胡散臭い敵役にも向けられていて、それぞれの事情を蔑ろにすることは決してない。どう解釈するかは人それぞれだとは思うが、こうした「優しさ」や「暖かさ」を本作の特徴として捉えてもきっと問題はないはずだ。

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漫画 8

惑星クローゼット

つばな

夢と現実の境界が曖昧になってくると、当然のことながらファンタジックで素敵な世界が広がるのかと思いきや、それはもう異形の生物が跋扈する不気味な世界への扉でしかなかった、的なSFチックなホラーテイストのある奇妙な物語。全4巻。

この作者の前作「第七女子会彷徨」もそれはもう奇妙な物語だったが、今作はまさにストレートな異形のお話なのである。読んでいる最中に思い出したのは偉大なる大漫画家楳図かずおの「漂流教室」、当然その系譜に則ってギョッとする展開やキャラクターが多数登場する。何と言うかこの可愛らしい絵柄におよそ相応しくない不気味な物体が平然と次のコマや次のページに現れるのだ。

さて第1巻の帯には「百合×SFサバイバル」との謳い文句があるが最終巻まで読めばそれが実際はどういうことなのか判明する。長くもなく短くもない程よい巻数で奇妙でユニークな、そして切なく優しい世界を味わうには最良の一冊だと思います。

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