皐月文庫

五十嵐大介

  • 1
  • 1
蔵書数68
最新(1週間以内)
最終更新日2020年8月12日
漫画 21

ディザインズ

五十嵐大介

農薬会社から始まり、宇宙開発にまで事業を拡大したバイオ産業大手のサンモント社は、宇宙移民計画の一環として一人の天才科学者が開発したHA(ヒューマナイズド・アニマル)の実証実験を開始する。遺伝子操作によって生み出された新しいヒト。物語はやはり「自然」をテーマに、人間社会への批判をこれまでにないほどの痛烈さで展開するメッセージ色の強い作品に仕上がっている。全5巻。

一昔前に「恐竜が絶滅せずそのまま進化を続けることが出来たのなら、いずれ今日の人間のような体躯と知性を獲得したに違いない」という進化論的学説が話題になったことがある。こうして生まれたディノサウロイド(Dinosauroid)いわゆる恐竜人間は専門家界隈に限らず多方面に大きな影響を与えたと言っていい。本作はそうした進化という大きなテーマを軸に「生物の持つあらゆる可能性」について、自然の摂理の側にあるHAと、その可能性を大いに利用したい人間を描きながら、ヒトそのものやヒトが作り出した現代社会の問題あるいは矛盾を詳らかにしていく。

一方で大いなる自然とは正反対に人間とは何か、「人間」らしさとは何に依るものなのか、というような哲学めいたテーマも強く感じられる。自然の側に立ちながら「人間とは一体何ですか?」というような視線。そのために一切の妥協なくセリフや描写は苛烈に表現される。合理非合理の末に、我々は自然を操らなければその存在を許されない生物になってしまったのか、あるいはそれこそ作中で言う思春期の神が目論んだ進化の形なのか。

物語の最後、人間社会に翻弄された一人の少女とHA達との日常の一コマにある種の希望を見出しつつ、彼女のただ「認める」という姿勢にこそ、本作の答えがあるような気がした。

漫画 13

魔女

五十嵐大介

この世界のあらゆる場所で、地球規模のあるいは宇宙全体の摂理として語ることの出来ない、大いなるものとの繋がりを紐解く魔女の存在、人間と自然といったほとんどの作品にある共通のテーマの原初のような物語6編。全2巻。

曖昧な描線にピントの合っていないような不安定な描写、かと思えば目を疑うほどの緻密さで描き込まれた得体の知れない造形と表現。波も雲も雨粒も、もっとミクロな細胞の世界でさえ、取り憑かれたような描き方を堪能できる。勿論単純な物語ではないのだが分かりにくさや難しさは感じられないだろう。逆に確固とした思想によって「これは伝えなければならない」というような作家の使命のようなものをほとんどストレートに受け取れる点で素直に「傑作」だと言えるのだと思う。

この作家について「BSマンガ夜話」では他の追随を許さないユニークさでほとんど稀代のアーティストのように大絶賛されたが、続く「漫勉」ではまるで職人のような佇まいで一人机に向かい、ただひたすらペンを走らせている姿が印象的だった。この時「女の子はとにかく可愛く書かないとダメなんです」という言葉も妙に印象的に残っているのだが、なんだかこのギャップもまた職人らしさに拍車を掛けてしまうような、そんな印象を持っている。