ディザインズ
五十嵐大介
農薬会社から始まり、宇宙開発にまで事業を拡大したバイオ産業大手のサンモント社は、宇宙移民計画の一環として一人の天才科学者が開発したHA(ヒューマナイズド・アニマル)の実証実験を開始する。遺伝子操作によって生み出された新しいヒト。物語はやはり「自然」をテーマに、人間社会への批判をこれまでにないほどの痛烈さで展開するメッセージ色の強い作品に仕上がっている。全5巻。
一昔前に「恐竜が絶滅せずそのまま進化を続けることが出来たのなら、いずれ今日の人間のような体躯と知性を獲得したに違いない」という進化論的学説が話題になったことがある。こうして生まれたディノサウロイド(Dinosauroid)いわゆる恐竜人間は専門家界隈に限らず多方面に大きな影響を与えたと言っていい。本作はそうした進化という大きなテーマを軸に「生物の持つあらゆる可能性」について、自然の摂理の側にあるHAと、その可能性を大いに利用したい人間を描きながら、ヒトそのものやヒトが作り出した現代社会の問題あるいは矛盾を詳らかにしていく。
一方で大いなる自然とは正反対に人間とは何か、「人間」らしさとは何に依るものなのか、というような哲学めいたテーマも強く感じられる。自然の側に立ちながら「人間とは一体何ですか?」というような視線。そのために一切の妥協なくセリフや描写は苛烈に表現される。合理非合理の末に、我々は自然を操らなければその存在を許されない生物になってしまったのか、あるいはそれこそ作中で言う思春期の神が目論んだ進化の形なのか。
物語の最後、人間社会に翻弄された一人の少女とHA達との日常の一コマにある種の希望を見出しつつ、彼女のただ「認める」という姿勢にこそ、本作の答えがあるような気がした。
内容を理解するには別の知識が必要か
SF界隈では有名な天才物理学者「フリーマン・ダイソン」、作中でも言及されるが、彼の提唱したいくつかの理論を概要だけでも知っておくとより楽しめると思う。
読み易さについて
問題ないと思うが、物語のテーマとして残酷な描写が多々見受けられる点に注意。
誰にでもお薦めできる内容か
かなり直接的なメッセージ色の強い作品だと思う。受け取り方は様々だと思うが万人向けかどうかは正直分からない。噛み砕いたり、オブラートに包んだり、といった「逃げ」もないのでその点では分かりやすい作品だとも言える。とにかくいろんなヒトに読んでもらいたいですね。