皐月文庫

イムリ

管理番号579
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最終更新日2020年8月20日
漫画 22

イムリ

三宅乱丈

戦争によって原住民「イムリ」の暮らす惑星ルーンを凍結させた支配民「カーマ」は隣星マージに移り住み、奴隷として故郷を持たない「イコル」の民を一種の超能力である「侵犯術」によって使役しながら賢者を頂点とした支配体制を四千年も積み重ねていた。この物語は2つの惑星と3つの民族を軸に、カーマの青年「デュルク」を通して描かれるSF的超大作だ。全26巻。

昨今の妙に整理されたテンプレート感のあるデジタルライクな絵柄とは一線を画し、荒々しくも宗教画のような神々しささえ感じられる独特なタッチ、メカ好きな男の子諸氏が喜ぶようなロボットや宇宙船は出てこず、かといってレイ・ブラッドベリに影響を受けたようなかつての詩篇的耽美系SF漫画とは異なる、どちらかというと極めて現実的な、個と群、支配する側とされる側、持つ者と持たざる者の対比による差別や区別など生に近しい社会構造に一石を投じるようなハードな作品に仕上がっている。

「侵犯術」のような人の意識を操る超能力めいた力には、マインドコントロール的な何かを感じ取る読み手も多いだろう。あるいは権力や多数派に対して盲目的に追従する者への批判もあるのかもしれない。しかし正義だとか悪だとかの二元論以前に、人が本来持っているはずの「正しさ」をくすぐりながら、「間違っているかも」という小さな疑念に真っ向からスポットを当てる、ここに本作の意義があるように感じている。

14年という長い時間を掛けて完結した作品であること、巻末にある細かい設定資料集等を鑑みるに、かなり綿密に考え抜かれ用意されたストーリーであることが窺い知れる。そうして創り上げられた世界の中に浸って、重厚な人間ドラマを味わえる本作は最終巻の帯にあるようにまさに「圧倒的」だと感じるに違いない。

内容を理解するには別の知識が必要か

冒頭から物語的な専門用語が飛び交うので初見時にはやはり多少の戸惑いはあるかもしれない。それぞれの巻末には用語集や資料集もあり、不明瞭であれば照らし合わせて読むこと。とはいえ一度でも慣れてしまえば、あるいは完結まで通読できる現状なら、問題ないだろうと思う。

読み易さについて

上記の通り、ある程度の慣れが必要。またレビューで散見される「絵柄」についても、好みの分かれるポイントであることは否めない。

誰にでもお薦めできる内容か

非常に難しいところだが、諸手を挙げて行き交う人に本作を配り歩くようなそういうメジャー感は残念ながらないかなぁと感じてしまう。かといってマニアックなSF作品かというとそんなことはなく、非常に難しい。流行りのテンプレート漫画にのみ嬌声を上げる連中は放っておいて、真に「漫画好き」「物語好き」を主張する人種であれば本作はビタッとハマるはずだ。

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