皐月文庫

雪と心臓

管理番号790
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最終更新日2022年7月3日
小説 32

雪と心臓

生馬直樹

クリスマスの夜、主婦の不注意から燃え上がった火の手は瞬く間に炎上し一軒家を包み込んだ。間一髪で戸外へ逃げ出した彼女だったが、ふと見やると燃え上がる二階の窓から幼い少女が「助けて」と叫んでいる。取り乱す主婦。そこへ不意にやってきた「その男」が炎を物ともせず家に飛び込み、やがて少女を助け出すことに成功する。しかしその男は助け出した少女を主婦に渡すことなくその場から立ち去ってしまう。その男はなぜ少女を助けたのか、少女を抱えたままどこに向かおうとするのか、そして彼とは一体何者なのか。スパイアクションを彷彿とさせるような強烈な冒頭を経て紡がれるその男と双子の姉の物語。

一気に読むべきだと帯に書かれてある通り、小説でありながら時間や空間の描写・捉え方が映画やドラマなどの映像作品に近しいような感覚がある。冒頭の大きな事件から不意に男の過去へと飛び、そこで男には双子の姉がいたことが明らかになるが、物語としてはその姉が筋となる。彼女との思い出とともに男の在りようがどう変化していくかを紐解いていく、そういうストーリーになっている。時間的な揺らぎはあるにせよ、そういう意味では「起承転結」に則った物語らしいドラマと言えるかもしれない。

ただ一方その結末については賛否ありそうだなとも感じた。物悲しさはあっても次に繋がるような希望を見せた方が良かったのか、あるいは潔く幻想的な終幕を迎えてもこの筋書きでは正しかったように思う。長い長い過去の物語から一瞬の出来事でしかない「今」の描写にあって、ようやく繋がったその瞬間にグッとくる「意味」があること、この仕掛けの奥深さを表現するにあたって何が良かったのか、これは読み手各々で議論できる余地が多いにある。

とにかく我々が思い描く理想の生き様とは何かを思い描くには最良の作品だと思う。それは「なぜ生きているのか」というようなややもすれば衒学的な言い回しになりそうなデリケートな問い掛けではなく、もっともっと身近でありふれたものに違いない。そういう誠実さをこの物語では味わうことが出来ると思う。

内容を理解するには別の知識が必要か

特になし。

読み易さについて

特になし。

誰にでもお薦めできる内容か

読む人を選ばず誰にでも楽しめる。

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