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最終更新日2020年8月12日
小説
19
春を背負って
笹本稜平
脱サラして亡くなった父の山小屋を継いだ「長嶺亨」は、山の仲間や登山者らとの交流を通じ、それぞれが抱える事情と向き合いながら奥秩父の山岳地帯を舞台に「山の人」として成長していく姿を描く。
「山岳小説」という分類があるように山を舞台にした作品にはひとつのジャンルを形成できるほどの独特の雰囲気があるように思う。特に山がちなこの国の事情を考えれば、誰もが簡単に入り込めるような身近な自然の脅威として一層強く感じるに違いない。この物語ではそういう山の厳しさを表す一方、主人公の「亨」を筆頭とした登場人物たちすべてを暖かさ優しさの象徴として描いている点に注目したい。勿論、それぞれに迷いはあるし、周囲に助けられることで乗り越えていく部分はある、それでも悪意や絶望すら包み込んで、ただ誰かを助けようとするその姿勢に言い様のない鮮烈さを受けたのだった。
山岳ものというとどうしても山という自然の恐ろしさ、それ故起こる悲劇といった普遍的な物語性があるように見える。しかしこの作品ではそこから一歩引いて、人間の持つ生命力のようなものに焦点を当てて「生き抜くこと」ではなくもっと純粋に「生きる」ということそのものを描いていると感じる。
「山」という極限の舞台で助け合いながら生きていく様。そして、あくまで人のうちにあるお話。読み終えた後の率直な感想としてはそういう印象なのだ。
内容を理解するには別の知識が必要か
特になし。
読み易さについて
問題なし。
誰にでもお薦めできる内容か
山岳小説というとハードな内容を思い浮かべたりするものだが、山岳とはいえ「八甲田」とかではなく秩父を舞台とした点で良かったのかもしれない。構えることなく自然の脅威とそこに住まう人間たちのドラマを楽しめる。
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