皐月文庫

津村記久子

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最終更新日2020年8月13日
小説 2

とにかくうちに帰ります

津村記久子

表題の通りとにかくウチに帰りたいのだ。豪雨だろうが何だろうが、帰巣本能に従って帰るためのストーリー。

あらかじめ約束されたかのようなタイムラインで進行していくごくごく日常のありふれたお話。しかしそこはこの作家なので一筋縄ではいかない、どんな石ころにだって宇宙を与えてしまう観察力で壮大な物語に仕上がっている。不意に現れる名前、城之内さんは…、ファン・カルロス何とかは…、この絶妙な仕掛けに例え様のない生々しさがある。まるで今もすぐ隣で息をしていそうなそういう感覚。

ちなみに読了後ツイッターで呟いた率直な感想が多分一番分かりやすい、曰く「征服も救済もなく、罪も罰もなく、劇的な生も死もないごく普遍的な日常をそういった振幅の激しいドラマと同じ熱量で綴られている。とにかく観察の作家だと。人間が好きなのだと思う。面白い。そして大好物だ。この作家に出会えて良かったよ、本当に。」

小説 1

この世にたやすい仕事はない

津村記久子

極度のストレスで仕事を追われた主人公が、職安の担当員に紹介された奇妙で不思議でニッチな仕事の数々を淡々とこなしてく様を描いた作品。これだけ書くととてもじゃないが面白さの欠片もなさそうな内容なのに、この作家特有の観察と指摘によって驚天動地の大スペクタクルロマンに早変わりする。

心情をストレートに伝えるだとか実は何にも考えていないで適当にうった相槌だとか、そういう言葉のひとつひとつに「生活のある人間」の生々しさを感じてしまうのは、この作品の、というよりこの作家特有のセンスなんだろうと感じる。

登場人物たちは真摯に働いて生きようとしているはずなのに、読み手には奇妙で滑稽に映ってしまうこのズレを味わい、読みながら何度もニヤニヤするに違いない。表題の通り、この世にたやすい仕事なんかない、ひょっとすると、もしかしたら、あるいは、たやすい仕事があるのかもしれないが、作家はちゃんと「ない」と言い切っているのでこの小説のポイントは疑いようもなくそこですね。