皐月文庫

佐藤多佳子

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最終更新日2020年8月12日
小説 15

黄色い目の魚

佐藤多佳子

絵を「見る」ことが好きな女子高生の「みのり」と絵を「描く」ことが好きな同級生「木島」の仄明るい青春模様。

馴染めないクラスメイト、授業中の彼のあまりにも上手い落書き、放課後の美術室、それぞれの家庭、そして彼女が世界で一番好きな場所という叔父「通ちゃん」のアトリエ。それぞれのキャラクターにそっと寄り添いながら、その頃の少年少女が持つ特有の複雑さを丁寧に描いている。そう、何というかもうどうにも形容しがたい優しさだとか暖かさに満ちているのだ。これは僕個人が思うこの作家特有の描き方でもあるし、次も読みたいと思わせる魅力のひとつでもある。きっと視点の切り替えにある文章の妙というのも大いに影響しているだろうし、さらに言えば彼らの側に自然に立てるようなそういう書き方というのは、特に青春時代の複雑さを表現する上でこれ以上ない技法のひとつとさえ思える。

大きな事件があるわけでもないし、世の中に絶望するような激しい感情もない、誰かの視線は気になるが一生懸命はただただ格好悪い。目の前の事象を重ねていくうちにそれぞれがちょっぴり成長するようなそういう青春。でも多分それが正解。

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小説 6

明るい夜に出かけて

佐藤多佳子

ある事件がきっかけで心を患い、大学を休学してコンビニでアルバイトすることになった主人公の再生と成長の物語。

バイト仲間の先輩と客としてやってくる小動物のような女の子との交流を経て、自身の過去と向き合えるようになっていく。ネット、生配信、そしてラジオ。この物語では新旧のメディアが入り乱れつつも、「顔の見えない声」や「本名ではないハンドルネーム」が暗がりの中の街の明かりのようなポツポツとした力強さを持って物語を前へ前へと進めていく。

ネットもラジオも目に見える繋がりは皆無なのに、どういうわけか誰よりも深く繋がれると信じている一方、現実の繋がりは目に見えない壁に囲まれていてどうにも出来ない。絶望の上にやってくる優しさだとか暖かさだとか、軽々しく言えることではないのだが、この対比と一体化がこの物語の軸になっていると思う。

なお、作中に登場するラジオ番組は実在する本物の番組で、パーソナリティも本人たちがそのまま登場(?)する。