皐月文庫

学園

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最終更新日2020年8月12日
漫画 15

ひとりぼっちの地球侵略

小川麻衣子

高校生になったばかりの「広瀬岬一(こういち)」は変わり者の先輩「大島翠」から「二人で一緒にこの星を征服しましょう」と告げられる。通っている学校の、住んでいる街の事件はいつしか宇宙全体を巻き込む壮大なストーリーへと発展していく。全15巻。

もはや「王道」というものが何なのかよく分からなくなってしまった。努力・勇気・根性(並びはこれで合ってるのかな)だとかもうね、という。それでもこの作品は世の少年が心弾ませるような英雄譚ではない気がする。女の子との恋愛コメディ的な要素もほぼないし、妙に凝った設定を解説することもない。ではこの作品の魅力とは何なのかと考えれば、可愛らしいのに何処か哀愁さえ感じさせる絵柄と間の取り方が絶妙な隙のないストーリー運びにあるのではないか。つまり妙に洗練されているのだ。結果「少年はそして青年となる」というフレーズがしっくりくる大人な終幕を迎える。これは僕の知っている少年漫画とは言い難い。ベクトルの違う、良くデザインされたオシャレな漫画なのである。

少年誌系の漫画を読むことはもうほとんどない。それでもどうやら後学のため、読み続けることによって見えてくる何か(少年の心とでもいうような)に期待しているフシがあるらしい。

小説 15

黄色い目の魚

佐藤多佳子

絵を「見る」ことが好きな女子高生の「みのり」と絵を「描く」ことが好きな同級生「木島」の仄明るい青春模様。

馴染めないクラスメイト、授業中の彼のあまりにも上手い落書き、放課後の美術室、それぞれの家庭、そして彼女が世界で一番好きな場所という叔父「通ちゃん」のアトリエ。それぞれのキャラクターにそっと寄り添いながら、その頃の少年少女が持つ特有の複雑さを丁寧に描いている。そう、何というかもうどうにも形容しがたい優しさだとか暖かさに満ちているのだ。これは僕個人が思うこの作家特有の描き方でもあるし、次も読みたいと思わせる魅力のひとつでもある。きっと視点の切り替えにある文章の妙というのも大いに影響しているだろうし、さらに言えば彼らの側に自然に立てるようなそういう書き方というのは、特に青春時代の複雑さを表現する上でこれ以上ない技法のひとつとさえ思える。

大きな事件があるわけでもないし、世の中に絶望するような激しい感情もない、誰かの視線は気になるが一生懸命はただただ格好悪い。目の前の事象を重ねていくうちにそれぞれがちょっぴり成長するようなそういう青春。でも多分それが正解。

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小説 14

ネバーランド

恩田陸

冬休みを迎えた男子校の学生寮で、帰省せず居残りを決めた4人の少年たちのそれぞれを描く青春小説。

彼らが抱える問題と巻き起こる事件、明かされる秘密。後書きで作家自身が萩尾望都の「トーマの心臓」をやりたかったと述懐している通り、あの時分の少年が持つ特有の表裏のようなもの、そんなものを逆に溌剌としたキャラクターたちに託して実に爽やかな青春学園ものに仕上がっていると感じた。

寮という閉鎖的な空間で、それでも4人しかいないというシチュエーションがもう既にミステリーの舞台としては申し分ないし、彼らがなぜ帰省せず、残らなければならなかったのか、彼らにどんな事情があったのか、それを知りたいと思わせる登場人物たちの個性があるのだ。しかも季節は冬。春でも夏でもないこの季節特有の雰囲気も相俟って舞台がより際立つような、そんな仕掛けに満ちている。前述の後書きにもある通り、作家自身この作品に対する思いは様々あるようで確かに仰る通り後の作品のベースになったようなそんな感じだ。

ちなみに萩尾望都の「トーマの心臓」は僕が学生の頃に読んで当時頭が破裂するほどの衝撃を受けた作品のひとつだということを補足しておきます。