綿谷さんの友だち
大島千春
高校3年生に進級しクラス替えとなった当日、「山岸」さんは教室の片隅で読書をしている見知らぬ同級生に気付く。「はじめまして」の挨拶は滞りなく出来ただろうか。冗談も洒落も通じないちょっと変わった感じの彼女は「綿谷」さんと言った。この物語はそんな女子高生「綿谷」さんを中心に「友だち」の作り方やあり方という、ともすれば深みにハマってしまいそうなアレコレを登場人物それぞれの個性にしっかりと焦点を当てて描いたコンセプトアルバム的青春譚だ。全3巻。
この物語の一番の魅力は、何と言っても初対面で同級生に「変わった娘・・・」と評されたその綿谷さんにあると言っていい。冗談や洒落のつもりで投げ掛けられた言葉を額面通りに受け取ってしまう融通の効かない真面目な娘、「友だちとは一体何だろうか」という極めて曖昧かつ微妙な問題について、もちろん「友だち」という喧々囂々の線引きをそのままドラマ化することは、青春モノとしてはかなり陳腐な展開と言えるだろう。だが曖昧だとか有耶無耶だとか、そんな甘酸っぱい平行線を「変わった娘」の綿谷さんは許さないのだ。空気を読まなければ成立しない感性や関係に一石を投じる綿谷さん。ただただ詰問するようであればナーバスな展開になってしまうだろうが、最初にきちんと説明することでその後の関係性を曖昧にさせないという意思表示になり、これまで「空気」という絆の中で生きてきたクラスメイトたちに(あるいは読者自身に)何か新しい関係性が生まれるのではという期待感を抱かせるのだ。この細かい「批評」と「変革」の積み重ねが物語を進める推進力の一つとなっている。
「友だち」という言葉の曖昧さが一方で青春時代の美的感覚だったあの頃。定義することの難しさ恐ろしさがあったのは多分今も昔も変わらないだろう。最近になって「多様性」という言葉が再発見されたが、ウワベの繋がりではなく、きちんと個性同士のぶつかり合いを描いた作品はそれほど多くないと思う。最初から計画された全3巻だったのか、事情はどうあれもうちょっと楽しみたかったなという思いとこの話数で良かったのだという感覚で読後は結構複雑な心境です。
内容を理解するには別の知識が必要か
特になし。
読み易さについて
前後編アリだが基本的には一話完結のオムニバス形式となっている。それぞれのタイトルがメインのキャラクターの名前になっている点にも注目したい。変に捏ねくり回すこともなくストレートな展開で非常に読みやすい。
誰にでもお薦めできる内容か
「友だち」とは何か、という本題の前に「コミュニケーションとは何だろう?」というテーマでおそらくかなり有用な気付きを与えてくれる作品のように感じた。その辺りに思うところのある方にも楽しめる作品だと思う。