皐月文庫

評論

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最終更新日2020年10月27日
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鶴見俊輔全漫画論・一

鶴見俊輔

日本の哲学・思想史を語る上で決して外すことの出来ない哲学者・評論家の鶴見俊輔(1922-2015)による漫画評論集。全2巻ではあるが内容が極めて濃いので一巻ごとに投稿する(僕は読破に2ヶ月を要した)。鶴見俊輔と言えば、哲学者にしては破天荒な遍歴を持つ方なのだが、特に大衆文化としての「漫画」表現に並々ならぬ関心を持ち、面白い評論を数多く残していることでも知られている。戦前に連載漫画というスタイルをとった国内初めての作品「正チャンの冒険」から、戦後昭和初期中期頃の長谷川町子、手塚治虫、水木しげる、白土三平、つげ義春など主に大衆文化によって育まれ、社会と密接に関わりのあった作家・作品を評論の題材としている。もともとは幾つかの誌面で掲載された評論をまとめたもの、と言えば本作の仕組みが分かりやすい。内容が重複する箇所もそれ故である。

日本漫画史における(特に安保闘争の起こった)60年代辺りの「知」としての漫画のあり方については正直なところ僕の感覚ではよく分からない。現代の漫画のような「商品」でなかった時代の今となっては違う意味での多様性に歴史的、社会的、あるいは作家の生い立ちや感性などを踏まえて哲学者として切れ味鋭く、しかし視線はあくまで大衆の側として実に大らかにアクティブに論じている。鶴見俊輔の言う「どんなに偉い学者でも主婦の持つ思想には敵わない」というスタンスが漫画評論のスタイルとして生きている。

本作は漫画の評論集でもあり貴重な漫画史を記した歴史書でもある。19世紀にアメリカで興った漫画文化から「正チャンの冒険」に受け継がれて最早100年以上、漫画の意味も意義も目紛しく変化してきたがその端緒を知る上でも本作は最良の一冊と言える。

その他 2

漫画ノート

いしかわじゅん

伝説のTV番組、BSマンガ夜話(NHK/1996-2009)にてその歯に衣着せぬ物言いで有名だった漫画家いしかわじゅんの漫画評論集。この他にも同じテーマで書かれた書籍が数冊ある。

確か僕が中学生の頃だったと思うが「マンガ基礎テクニック講座」という書籍で作家いしかわじゅんへのインタビューを読んでいたこともあり、件の番組内でも手塚治虫以前以後の黎明期から当時の最新作までを網羅した漫画の歴史、漫画における表現のあり方、細かい技法、あるいはその系譜など、ただただ漫画そのものへの愛をもって語る姿に随分感銘を受けたのだった。

さて本作でもやはりその愛の掛け方は変わらない。ここで紹介されている漫画は全部で約170作品。時には漫画界への嘆きやそれに近しい指摘もあれば、漫画や漫画家に対する注文、赤ペン先生のようなツッコミ、そういうものすべてをひっくるめて興味深く読めるはずだ。

小説などの文芸作品ももちろんそうなのだが、漫画はより強く「商品」でなければならないというジレンマに晒されていると感じる。売れる売れないのキワに立たされながら、なぜこれほどまでに多様化し立派な文化足り得たのか、その答えを知るためにも本書は最適だろう。