皐月文庫

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最終更新日2020年8月12日
小説 20

海の仙人

絲山秋子

宝くじに当選して思わぬ大金を得た「河野」はさっさと会社を辞めて日本海を臨む福井県敦賀に移住する。不意に現れた不詳の神「ファンタジー」との共同生活、ジープに乗った年上の「かりん」との出会い、元同僚で何やら思いのある豪快な「片桐」、そんなふうに孤独だった「河野」へ徐々に加えられていく色や音。とにかくその神「ファンタジー」をどう読むかで、この物語の面白さは如何様にも変わってしまう、不思議な物語だ。

物語の構成としては本当にシンプルだと思う。ちょっとしたロードムービー的な展開もあるし、出会いと別れもきちんとある。誰もが孤独だし、でもどこかで誰かを必要としている、主人公「河野」はそれぞれの個性に振り回されながらも、「置いてきた」自分自身と向き合わなければならなくなる瞬間がある。そんな良質な人間ドラマを展開していく中で、異質の存在、神様「ファンタジー」とは一体何者なのか。

何の役にも立たないが、役に立たないなりの不思議な能力がある、ぶっきらぼうでいて、でもやっぱり神様らしい言葉を吐く。僕なんかは最後の二行で初めて彼の存在があったのだと思いたい派なんだが、要するにそんな奇妙(というより珍妙)な存在がこの物語に「居る」にもかかわらず、作中の何処でも何ら浮いた感じがしないのは読後から今以て謎のままだ。

小説 4

マレ・サカチのたったひとつの贈物

王城夕紀

「帰宅すると、彼女はいなくなっていた」自分の意思とは関係なく場所から場所へと一瞬に跳躍してしまう病、量子病に罹った女性の出会いと別れの物語。

腐り始めた資本主義社会が舞台の近未来SF小説でもある。量子力学の説明ではじまる第1節から148節まで、その言葉の選び方だとか文章自体の表現の美しさだとかは詩のようでもあるし、飽和する世界を飛び、出会い、気付き、そして真理に迫っていく純粋な成長譚でもある。

SFという括りではあるだろうし、そういった小道具やキーワードも多く使われているのだが、ともすればエンタメよりのファンタジックになりがちなSF的世界観ではなく良質なSF文学として大いに楽しめる作品だと思う。