皐月文庫

家族

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最終更新日2020年8月12日
漫画 8

惑星クローゼット

つばな

夢と現実の境界が曖昧になってくると、当然のことながらファンタジックで素敵な世界が広がるのかと思いきや、それはもう異形の生物が跋扈する不気味な世界への扉でしかなかった、的なSFチックなホラーテイストのある奇妙な物語。全4巻。

この作者の前作「第七女子会彷徨」もそれはもう奇妙な物語だったが、今作はまさにストレートな異形のお話なのである。読んでいる最中に思い出したのは偉大なる大漫画家楳図かずおの「漂流教室」、当然その系譜に則ってギョッとする展開やキャラクターが多数登場する。何と言うかこの可愛らしい絵柄におよそ相応しくない不気味な物体が平然と次のコマや次のページに現れるのだ。

さて第1巻の帯には「百合×SFサバイバル」との謳い文句があるが最終巻まで読めばそれが実際はどういうことなのか判明する。長くもなく短くもない程よい巻数で奇妙でユニークな、そして切なく優しい世界を味わうには最良の一冊だと思います。

著者
出版社
小説 8

本にだって雄と雌があります

小田雅久仁

失礼ながらこんなふざけた表題で目を惹かないわけがない。しかしその実「本の位置を変えてはならない」という亡き父の遺言を破った主人公が遭遇する驚愕の光景と、そこから始まるミステリアスでユニークであらゆるジャンルが綯い交ぜになった壮大な冒険物なのである。

この物語に掛かれば偉人も日本語を喋るコミカルなただのおっさんと化すくらいのスケール感。とにかくもう夢中になって一気に読んでしまった。期せずして「少年の心を取り戻しちゃった…」という具合である。

この作品に登場するおびただしい知識量は、ちょうど図書館の本棚の端から端までを一緒くたにしたような、つまり本棚数個分の物語を破綻させずにひとつにまとめました的な印象。まさに本棚本。印象に残ったのはそういうカオスな物語であるにも関わらず、読んでいる最中にはその映像が鮮明に思い浮かぶこと。

もし自分が中学か高校の国語の教師だったら、夏休みの課題図書は間違いなくこの本にするつもりです。

小説 7

彗星物語

宮本輝

どうしてこの作家はこんなにも美しい文章が書けるのだろう。言葉の選び方、構成、内容そのものに至るまで一級の芸術品のような流麗な響きに満ちている。

大家族の城田家にハンガリーから留学生としてやってきた青年ポラール、フックという名前の犬一匹が織りなす「ファミリー」の物語。まだハンガリーが民主化する以前、社会主義国だった頃のお話だ。総勢12人という大家族の元に、遠い異国からやってきた異質の存在が混ざることで家族の絆がどう揺れ動くのか、そういう仕組みになっている。もちろんポラール青年の目だけを通して、ということではなく、総勢13人(時には迷犬フック)も含めてそれぞれの目線で家族が描かれているのだが、彼ら彼女らの思惑を第三者目線で味わえる読者の贅沢さと言ったらない、それぞれの事件とそれぞれの思惑とがぶつかり合うような「繋がり」(今となってはもう懐かしささえ感じるような)をこれでもかと感じて欲しい。

しかしそれにしてもこのお話に関西弁はずるいなぁと思う。いや関西弁だけじゃなくて方言全般、もう本当にずるい。