皐月文庫

恋愛

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最終更新日2020年10月27日
漫画 24

水は海に向かって流れる

田島列島

高校生になった「熊沢直達(くまざわなおたつ)」くんは、漫画家になっていた叔父の元に居候することとなる。アパートというよりシェアハウスのようなその家には風変わりでクセの強い面々が揃っていたが、一見して一番まともに見えた10歳年上のOL「榊」さんは、実は直達くんと浅からぬ因縁で結ばれていた。この物語は過去から現在そして未来へと繋がる様々な絆をテーマにした「家族」譚だ。全3巻。

過去の不義から繋がる因縁。やろうと思えば何処までも重厚なシリアスものにできたはずだ。ところがこの物語はそんな重そうな展開に陥る一歩手前で、トボけたコマを大胆に差し込み、筋書きの力加減をマイルドに調節してくるのだ。この「極限」に振り切らない幕切れは簡単に言ってしまえば「なんちゃって」で方を付けるあの感覚で説明がつくのかもしれない。だが波風が立ちそうで立たない揺らぎの部分を筋書きではなくシリアスとユーモラスの振幅で語るこの構造に、家族や家族めいたものの理想の絆として投影したかったのではないか。かつてあった「崩し」の時代性を基にした配慮ではなく、最終巻巻末の後書きから察するにおそらく作家自身の資質が色濃く反映された故の構造なのだと思う。

世の奥様方に向けられた午後のテレビドラマにはないそんな振幅を、読み手はどう感じるか、結果としてひとつの答えに行き着かないだろうという曖昧さに結実する。また年少の「直達」くんとその同級生が気を使い「配慮」する側であり、反対に年長の「教授」や「親」たちが自由自在であること、その中間にある「榊」さんが繋ぎ(あるいはワイルドカード的な)であるという図式がその構造に拍車を掛けている。

緊張のキワで逆に舵を取る、世代の役割を逆転させる等、この「逆を衝く」という感覚こそ本作の魅力とも言えるだろう。多様性という言葉で片付けるのではなく、作家の思う筋書きにまんまと乗せられ、振り切らない揺らぎの中でシリアスを堪能できる稀有な作品なのだ。

著者
出版社
小説 23

海の見える街

畑野智美

市立図書館の司書「本田」さんはインコを飼っている草食系男子。同僚で化粧っ気のない「日野」さんは「本田」さんからもらった亀を飼っており、階下の児童館に勤める「松田」さんは人には言えない趣味のせいで金魚に並々ならぬ思いがある。淡白だったその輪の中に、ある日派遣職員としてウサギを連れたコケティッシュな小悪魔系女子「鈴木」さんがやってくる。この物語はそんな3人+ワイルドカードな関係図で描かれる海辺の図書館を舞台にした恋愛小説だ。

題名の「海の見える街」の通り、ところどころにジブリ映画「魔女の宅急便」を想起させる設定が垣間見られる。特にその表題曲の雰囲気が似合うようなテンポで物語は進んでいくのだが、解説にあった「大人のための恋愛小説」というより、歯切れのいい心地よいリズム感で各個性のぶつかり合いを楽しむ群像劇のようである。

4人は各々固有の問題を抱えてはいるが、共通して友達が少なく、そして恋愛が上手くない。揃いも揃ってまあ何だろうこの人たちはと言いたくなるキャラクター像は、前述の動物「インコ」「亀」「金魚」「ウサギ」にもカラクリが施されていてるわけで、人間の側と動物の側のそれぞれに個性を忍ばせた挙句、図書館という特異な場所を舞台にした結果、不気味なほど妙にリアルな「個」を得てしまったのではないか。たとえばコメディのような非日常的な事件が起こっても違和感をまったく覚えないのは、そんなふうに多面的重層的に表現された彼らの個性に大きく依っているように思う。

恋愛ものにあまり詳しくない僕なんかでも、この物語には幾らでも深読みできる奥行きがあるんだろうなと、なんだかそんな「してやられた」感に最後まで取り憑かれたままだった。多重構造の恋愛小説、嫌いじゃないです。