皐月文庫

講談社

  • 2
  • 2
蔵書数68
最新(1週間以内)
最終更新日2020年8月12日
小説 5

アサッテの人

諏訪哲史

群像新人文学賞と芥川賞をダブルで受賞。作者も書いているが小説による小説批判。物語すら壊してくる。「私」と読者とアサッテの人こと「私」の叔父と叔父の妻朋子さんの世界のお話。

哲学科出身の作者が綴る日常の中の宇宙とは、と言ったような一般人には至極どうでもいい学問を「いやいやどうでもよくない」と改めさせるに十分な問題作なのではないだろうか。メタフィクションの体をとりつつも、読み手と一体となって問題を捏ねくり回すこの物語には、他にはない緊張感があるのも事実。

「壊す」こと「分解する」ことについて創作のステップとしては正しいし、おそらく作り手の相当数が当たり前のこととして捉えていると思う。しかしその混み入った過程を論理的に示すことが、これほどの価値になるのかと作り手の多くはそう思うに違いない。そんなふうに真面目が過ぎたユーモアとそのズレを楽しみつつ、ニヤニヤとして一気に読んでしまったのだった。

漫画 3

Spirit of Wonder

鶴田謙二

この作家の著作は他の作家に比べて圧倒的に少ない。この30年で10冊あるかどうかという状況において、(相当数いるとみている)マニアックでコアなファンの原初にしてバイブルのような短編集。デビュー作1編含む全12編全1巻。

「SFとはつまりロマンだ」を地でいくような甘くて優しい冒険譚を堪能できる一冊。水没した実家に潜水艇、エーテル気流理論、火星旅行、瞬間物質移動装置、そういったSF的ワードもこの世界では郷愁を誘うようなある種の美しさに満ちている。難しく考える必要もないし、言葉尻を捏ねくり回すこともない、それでもしっかりと冒険心や探究心をくすぐってくるような素直な物語たちなのだ。

ちなみにこの短編集に収録されている3編「チャイナさん」シリーズはその短い何十ページかでアニメ化までされている。

著者
出版社
タグ