皐月文庫

こざき亜衣

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最終更新日2020年10月4日
漫画 24

あさひなぐ

こざき亜衣

スポーツに縁のなかったメガネの主人公「東島旭(とうじまあさひ)」は二ツ坂高校に入学すると、耳障りの良い謳い文句とキレのある先輩に惹かれて「薙刀部」に入部する。決してメジャーな競技とは言い難い「薙刀」にかける女子高校生たちの青春模様を描いたスポ根系群像劇。全34巻。

凡人が天才になる様を描いたわけでもなく、背負った業から逃れる悲哀を切り取ったわけでもない、ただ純粋に「何も持っていない」主人公のこの成長譚は、他のスポーツ系漫画とは明らかに趣が違う。何もないことが逆に良かった、というわけでもなく、群れに埋もれてしまった一人の少女にスポットを当てて、彼女と彼女を取り巻く個性のせめぎ合いを描きながら、その中で得た思いや気付きを紡いでいく様に重点が置かれている。端的に言ってしまえば、試合の勝ち負けよりも彼女や彼女たちの生き様、もしくは思想(生き方・自分とは何かといった類の)の変遷を楽しむ物語、なのだと思う。

いあゆるバトル系の漫画にありがちな「強者のインフレ」に陥らず、数多い登場人物のそれぞれにも目を配り、一方で「なぜ戦うのか」という主題から目を逸らさず根源的な人と人とのやりとりで気付かされる自分という存在。最終巻の作者後書きで述べられている通り、作家本人の当時の環境や思いがあったにせよ、ある種の「悟り」のようなフッと肩の力が抜ける瞬間をこうもナチュラルに筋立てるにはかなりの試行錯誤があったに違いない。

足掛け約10年、じっくりと醸成されていった物語の終幕は厳かで実に美しい。この先の「未来」でも彼女たちはきっとやり抜いてくれるはずだという確信、読者やもしかしたら作家の手から彼女たちが離れた瞬間を目撃してしまった寂しさ・頼もしさ、そんな生々しい感傷に浸って長く心に残る傑作だと断じたい。