皐月文庫

三浦しをん

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最終更新日2020年8月12日
小説 22

神去なあなあ日常

三浦しをん

フリーターでもやって食っていこうと心に決めた「平野勇気」は担任「熊やん」の策略にハマり、高校卒業と同時に三重の山奥で林業に従事することとなった。生まれ育った「横浜」とは違う、のんびりとした山奥の小さな集落「神去村」。果たして彼はいっぱしの「男」になれるのか、その奮闘ぶりを描いた青春模様。なおこの物語の後日譚「神去なあなあ夜話」含めて「神去シリーズ」全2巻。

「なあなあ」というのは方言のひとつで冒頭その説明から入るのだが、もうこの時点でこの作品の雰囲気が何となく読み取れてしまう。肩の力が抜けるような「ふわっ」とした感覚だ。これが実に気持ちがいい。そんな方言のマジックに彩られて、林業という過酷な仕事の裏と表を安心して受け取ることができてしまうのだ。

ところでこの「ふわっ」と感はどこからこの世界を見ているのかという「視点」にも影響を与えている気がする。例えば物語は主人公の「勇気」の目線で描かれているはずなのに、なぜかそれよりも強く上位の視点・存在を感じてしまいドキッとしてしまう。テーマとして大いなる自然を相手にしているからなのか、それともこの作家の為せる技なのか、どこか「勇気」の親にでもなった気分で、寄ったり引いたりを繰り返しながら、吸い付くように一気に読んでしまったのだった。

自然の厳しさや恐ろしさを知った上で、どのように山と向き合い、付き合ってきたのか、村の風習やそれにまつわる不思議な逸話など、物語の奥行きは想像以上に深く広がっている。都会らしさから切り離されて、ゆっくりとその山の一部となっていく「勇気」くんに優しい拍手を送りつつ、今ある自分が何をすべきか、ちょっとだけヒントをもらったようなそんな印象である。