皐月文庫

漫画

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最終更新日2020年8月12日
漫画 6

ハナヨメ未満

ウラモトユウコ

お見合いパーティーで知り合った相手と即断即決の勢いで婚約したが、挨拶する前に突然亡くなった義父の葬儀でただ一人瀬戸内海の小さな島へ。人口たったの400人、その島(塩島)を舞台に繰り広げられるドタバタ劇。全3巻。

主人公は東京で働くウェブデザイナーのOL。それに加えて、どうしても島に帰りたくない婚約者の「彼」と個性的な島の面々、そして怪しげな裏世界の住人たち、コメディはやはりキャラが立っていないと面白くない。そしてセリフにある種のセンスがないとスベってしまう。ツッコミの切れ味も重要だと思うのだが、とにかくこの物語の秀逸な点はそれら全てで肩肘張らない程度に実に小気味好いバランス感覚で構成されているところだと思う。「熱量」の問題ではなく、何と言うか「間」の問題なのだ。個人的にはコメディが書ける描ける人というのは頭のいい人だという認識があって、そういう意味でも期待を裏切らないセンスを堪能出来る。それに何より個人的にはこの絵柄がツボ。

漫画 5

岡崎に捧ぐ

山本さほ

とぼけたようなコミカルな絵柄で描かれる笑いあり涙ありの自伝的物語。全5巻。

小学4年生からの20年間をエキセントリックな唯一無二の親友「岡崎さん」との関係を軸に語られる、言うなれば平成版「ちびまるこちゃん」なんだと思う。主人公の「山本さん」はオタクに抵抗があるくせにその実オタク気質で、幼いながらも常識人としての立ち居振る舞いを信条としながら、異質な親友「岡崎さん」に喜んで翻弄されていく。言うなれば「山本さん」はツッコミで「岡崎さん」はボケであり、この点においては「ちびまるこちゃん」とは真逆の展開になっている。しかし、だからこそ同世代或いはそれ以上の大人たちにも受け入れやすい構成になっているのではないだろうか。

実のところ、彼女彼らの世代であったような「たまごっち」も「プレイステーション」もほとんど思い入れがないので歯痒さすら感じてしまうのだが、世代がどうの時代がどうのという前に、誰もが持っている思い出の「ボケ」を呼び覚ますには最良の一冊だと思います。

漫画 4

プリンセスメゾン

池辺葵

居酒屋チェーンで働く沼越さんの「家」を買うためのお話。全6巻。居酒屋の同僚、モデルルームのスタッフ、その関係者、手の届く距離のごくごく小さな範囲で繰り広げられる「居場所」の物語。

まったく唐突に「幸せ」って何だろうと思う。ふと思いついた夢だとか希望のような小さくても前向きな思いを詰め込んだようなそういう感覚こそ、この物語の大きなテーマのように感じる。そう別に小さくてもいいのだ。この作品の中の登場人物たちは誰もがその小さな幸せを大きなテーマとして抱えている。悩みもするし、失敗もする、誰もが日々出会うような小さな岐路に逡巡する、そういう様子がとにかく愛おしい。そうとにかく愛おしいのです。

漫画 3

Spirit of Wonder

鶴田謙二

この作家の著作は他の作家に比べて圧倒的に少ない。この30年で10冊あるかどうかという状況において、(相当数いるとみている)マニアックでコアなファンの原初にしてバイブルのような短編集。デビュー作1編含む全12編全1巻。

「SFとはつまりロマンだ」を地でいくような甘くて優しい冒険譚を堪能できる一冊。水没した実家に潜水艇、エーテル気流理論、火星旅行、瞬間物質移動装置、そういったSF的ワードもこの世界では郷愁を誘うようなある種の美しさに満ちている。難しく考える必要もないし、言葉尻を捏ねくり回すこともない、それでもしっかりと冒険心や探究心をくすぐってくるような素直な物語たちなのだ。

ちなみにこの短編集に収録されている3編「チャイナさん」シリーズはその短い何十ページかでアニメ化までされている。

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漫画 2

イエスタデイをうたって

冬目景

コミックス第1巻が発刊されたのが1999年。最終巻である11巻は2015年、足掛け16年に渡って様々な意味で読者の気を揉み続けた大作(と言っていい)。後日譚や作家へのインタビューを載せた短編集「afterword」も含めて全12巻。

携帯電話もネットのやりとりも出てこない昭和のモラトリアムを味わえる。何も起きないし、何も始まらない、だがゆっくりと確実に掛かった時間以上の緩やかさで逡巡し葛藤する、それでも爆発するような激しさは勿論なく、どちらかと言えば下流の川の流れのようなそんな静けさ。おそらくこれが等身大というやつなんだと思う。

カラスを肩に乗せたハルというヒロインも決してエキセントリックなわけではない、もちろん「ああいたよねこういう娘」ということでもなく、何というか事も無げにただ在るというようなそういう感覚(或いは)描き方がこの物語では大事なポイント。

漫画 1

群青学舎

入江亜季

作家の入江亜季さんを知った初めての作品にして個人的な「好きな漫画作品10選」には絶対に入れたい不朽の名作。人間もいれば妖怪も化け物もいる、魔法使いもいればヤンキーも委員長もいる、様々な時代の様々な種類の学校(学園)を舞台に繰り広げられる日常と非日常の物語。全4巻。

どういうわけかこの作家の作品には数ある現代の作品の中でもズバ抜けて「手塚治虫」らしさを感じる。偉大な神から連綿と続いている漫画史においてもきっと真っ当な正統派の部類に入るんじゃなかろうか。もちろん絵作りの方法論などは記号では語れない細かさが十二分にあり、内容に沿った繊細で緻密なペン捌きを堪能できるし、コマ割りの具合も絶妙なのだが、どうにも古き良き漫画の体を見事に継いでくれているという感動の方が勝ってニヤリとしてしまう。